部会長挨拶   部会長写真
省エネルギー部会長 栗原史郎
(一橋大学 教授)

    日本が日露戦争に勝利した6年後、明治44年に夏目漱石は和歌山県で「現代日本の開化」と題する講演を行った。人間の活力が外界の刺激にどう反応するか、という観点から文明をとらえ、「義務の刺激」と「道楽の刺激」の2つにわけている。何かをしなければならないという義務にたいして、人間は短時間にできるだけ多くの働きをしようと色々工夫する。つまり、人間のエネルギー、活力を節約しようとする。その結果、色々な発明が出てくる。汽車や汽船、電信電話、自動車、飛行機などの機械文明が出来上がる。人間の代わりに機械が仕事をするようになってエネルギー消費が増える。他方、自ら進んで自分のエネルギーを消耗して嬉しがる反応を起こさせる道楽の刺激にたいしては、文学、科学、哲学を作り上げて、社会がわがままに、贅沢になる。この文明開化モデルからすれば、時が経てば、増エネこそが、漱石の言う「自然の大勢」とならざるを得ない。
    機械文明社会の省エネが自然の大勢に反しているとすれば、省エネの推進には、よほどの覚悟が必要だろう。機械の効率を上げるイノベーションが成功すれば、技術的にエネルギー消費が抑えられる。さらに、エアコンの設定温度を外気温に近づけるとか、クルマをやめて自転車にするなど、「機械の省エネ的活用」という人間側の工夫も有効だろう。近年の飽食社会の出現でカロリーのとりすぎによる糖尿病が先進国で蔓延しており、生活習慣を変えなければ長生きできない時代を迎えているが、エネルギーの使い過ぎに起因するヒートアイランド現象や温暖化を改めなければ、ヒトが住めない地球になってしまう。
    このように省エネの推進は時代の要請であり、技術の変革だけでなく、人間・社会の側が優れた技術をどう使いこなすのか、そのための制度や仕組みをどう設計すべきなのか、という人文・社会科学の研究も必要である。このような幅広い視野のもとに本部会の活動を進めてまいりたい。